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隠し味


 上京を明日に控えた塞です。みなさまいかがお過ごしでしょうか!
 ウフフついに、ついに、ついに明日東京に旅立ちます。それと同時に、夏休みも終わりを迎えるのです!まぁ、働きたいと思っていた職場なのでとても楽しみではあります。

 さて、話はかわりまして、今日こんな特別な日にお話を上げさせていただきました。いつもツイッターでお世話になっている方へのお礼のようなものとして、一つ。
「ミュラディア」です(*'▽')
いやー 初のディアスと初の左ミューラー( º﹃º` ) これがまた、難しくもあり楽しくもありました!
で、内容の方はこれまたツイッターでちょっとだけ話をしていました、お野菜の話。ディアス野菜苦手っぽいよねーって話を少し書かせていただきました。楽しんでいただければ幸いです。
「ミュラディア」とはいっていましたが「ディアパス」要素もちょっとだけ入っているので、ご注意ください。

それではみなさんまた次回!

あらすじ↓
パスカルと喧嘩したディアスはミューラーのお家に突撃訪問します。










 隠し味

玄関のドアを開けたとき、世にも珍しい来客に彼は巨体を固くした。大きな目をさらに大きくさせ、何事かと言わんばかりの様子で客人をみる。言葉は…でなかった。しかし、そんな彼を気にすることなく、来客はヨッと短く挨拶すると、ミューラーの脇をするりとくぐり抜け、家主をおいてさっさと奥へ入っていく。
 客人といえど、その性格は自由奔放、天真爛漫という言葉は似合うような彼だ。今のような行動をとったところで、仕方がないか、と苦笑を漏らすのが精一杯だった。それよりも、そんな無礼な振る舞いをされたところで不快に思わないのが不思議なほどである。ミューラーは開けっ放していたドアを閉めると、客人である彼の後ろを追った。
 天才ファン・ディアスの来訪である。
「悪いがマテ茶は無いぞ」
 コーヒーでいいか? とミューラーがディアスに聞けば、彼は笑顔で首を振る。
「大丈夫、持ってきたから」
 ミューラーはその言葉に首を傾げるが、ディアスは気にせず、持ってきたスポーツバッグから濃い緑の丸いグァンボ(専用の容器)と銀色のボンビージャ(専用のストロー)、さらには彼が好きであろう茶葉まで取り出してきた。はじめからここでマテ茶を飲むつもりだったのだろう。その要領のよさにミューラーは唖然とする。
「ちょっとキッチンかして」
 一通り必要なものを取り出した彼は、我が家と言わんばかりに家主を差し置いてキッチンへと向かう。
「数えるほどしか来てないのに、よく覚えてるもんだ」
 そういえば、さっきだって、何の連絡なしにここへも来られたのだ。それはそれですごいことなのだろう。
 キッチンから聞こえる騒がしい音に、ミューラーの意識は戻される。時折聞こえる陶器のぶつかり合う音に溜め息つきつつ、自分もコーヒーをいれようとキッチンへと向かった。

 

彼らがリビングに戻ってきたのはきっちり一時間後。ただマテ茶を、コーヒーを入れるだけのはずだったのに……。
 原因はたぶん、いや、きっとこの男なのだ。なにが珍しいのか、はたまた何かを探しているのか、あれやこれやとキッチンを散らかし回り、その後ろをミューラーが片づけて歩く。しかし、片づけた後からまた散らかす……の繰り返し。動物が自分のしっぽを追いかけて遊ぶのと一緒だな、と片隅で思いつつ、最終的にはディアスを小脇に抱えてから片づけをしたものだ。
 そして、なぜか始まったディアスのマテ茶の入れ方教室。ディアスの指示に従いミューラーがなぜか入れている。ただ、その指示も曖昧なもので、もうちょっと多く、少なくなどと言ってくる。何グラムで、などと明確なものがない分、ミューラーとしては入れにくくもあった。彼にそれを伝えたところで、いつもこんなもんだ、と言われるに違いない。ディアスのマテ茶教室はゆうに二十分はかかったであろう。
 今回はテレレという水出しマテ茶を作るとこの。これまた曖昧な量の水を入れさせられ、ディアスが満足するまで続けさせられた。
「よし!これでミューラーもマテ茶がいれれるな!」
 嬉しそうな声で言われれば、そうだな、と返すほか無い。
「次来るときはミューラーに入れてもらえるんだ!」
 そう言って、嬉しそうにディアスはリビングに向かう。ミューラーはといえば、溜め息をつき、自分のコーヒーを入れて彼を追った。

「で、どうしたんだ」
 ソファに腰を下ろした、ミューラーは一息つき、彼に問う。彼がただ何となく来るなど思いもしない。ましてやアルゼンチンからここまでの距離を考えると、おいそれと来れるものではない。きっと、何かあったはずだ。ミューラーは普段を変わらない話をするように聞いてみる。
 ディアスに彼のそんな気遣いが伝わるはずはない。ボンビージャから一口マテ茶を飲むと、あっけらかんとした表情で答えた。
「ケンカしたんだ」
「……ケンカ?」
 その様子からケンカをして、そのせいでわざわざドイツまで来たなどという深刻さは一切見あたらない。どちらかと言えば、近所で遊びにきた、そんな雰囲気だった。きっと彼のことだ、そんなに深刻には考えていないのだろう。
 しかし、あの仲の良い、人生のパートナーともいえそうな空気を醸し出しているような彼らがケンカとは……。果たしてどのような内容であるか、はたまたどれほど壮絶であるか、ミューラーは怖いもの見たさ、好奇心という意味ではかなり気になっていた。だが、口下手なミューラーがその話題を当たり障りなく探るというのは難しいものである。どのように探ろうかと考えあぐねいていれば、事はすんなりと進んだ。
「だってさあ……やさい食えって……言うんだぜ?」
 ケンカして当然だと言わんばかりのディアスの態度に、ミューラーは呆然とする。
「……それだけ……か?」
 普段なら、そうか…と聞き流すであろうが、今回ばかりは耳を疑う。そしてつい聞き返してしまった。
 野菜を食え……彼はそう言った。自分の耳がおかしくなければ、確かにそう言ったのだ。しかし、たかがそれだけのため、それだけのせいでドイツまで来るだろうか、それともこの裏にもっと重要な出来事が隠されているのではないか。ミューラーの中にある常識を遙かに越えた場所にいる彼がなんだが不思議な生き物に見えてくる。 
 だが、ディアスはそんなこと意にも介さず、つらつらと不満ともいえぬ不満を並べたてる。
「だって、今まで、そんなこと一言も言わなかったんだぞ? それなのに、ここ最近いきなり言い始めたんだ。オレがやさい嫌いだっての、知ってるくせに」
 ずっと一緒にいて、そんなこと言ったことも無かったのに……と口をとがらせる始末。
「それは……お前の身体を心配しての事じゃないのか?」
 実際アルゼンチン料理を食べたことはないのだが、牛肉が主食とは聞いたことがある。スポーツを生業とするものであれば、食事に気を使いそうであるが……。
 ミューラーはチラリとディアスをみる。彼はミューラーと目が合うと、軽く首を傾げニコリと笑う。彼はもう一度ディアスに同じ台詞を吐き、パスカルも彼を心配してのこと、と伝えるが、ディアスはムッと顔をしかめるばかり。コロコロと表情の変わる彼を見ているのは飽きないものだが、今はそれを眺めている余裕はない。
「でも、だまして食べさせるのは良くない」
 だまして? ミューラーが詳細を聞くと、ディアス曰く、料理の端々に刻んだ野菜が入っているとのこと。彼がパスカルに問いただせば、今までずっとバレないように料理に混ぜてきた、ただ、今までの量じゃ足りないから最近野菜を増やしてきたと彼が悪びれる様子なく言ってきたらしい。それが気に入らなかったようだ。ディアスは鼻息荒くミューラーにこぼす。
「じゃあ、パスカルに野菜を食べろと、そのまま出されたら素直に食べたか?」
「……やさい苦手……あんなの……葉っぱと根っこじゃん……」
「素直に食べないならそうやって料理に混ぜるしかないな」
 ミューラーがそう言えば、お前もパスカルの味方かよ……とふてくされ、ソファの上で膝を抱えて小さくなってしまった。元々小さな彼が丸くなってしまえばさらに小さくなってしまう。座っているミューラーの半分ぐらいの大きさにまとまってしまった彼。顔を伏せているせいで、表情は見えないものの丸まった彼の背が不機嫌であることを伝えてくる。そんな彼を見て、実年齢よりもなんだか幼く感じてしまう。
 ミューラーはわき上がる愛おしさを込めて、ディアスのフワフワした頭をポンポンと軽く叩く。軽く叩いたつもりでも、ディアスからすれば結構衝撃を感じるようで彼が叩くたびに、グッグッと声にならない声を上げている。
「いや、おれはディアスの味方だが?」
 ミューラーは静かにそう言った。その穏やかな声はもちろんディアスにも聞こえているはずだろう。彼の身体がピクリと動く。
「おれはお前の味方だからこそ、お前には元気でいてもらいたい。……パスカルも同じ気持ちじゃないかな」
 そうディアスに言い聞かせるが、彼はピクリとも反応しない。ただ、規則正しく丸まった背が上下に動く。
 きっと彼も思うところがあるのだろう。何もいわず、じっと息を殺している。彼が彼なりの、それでいて彼らしい答えがでるまで、ミューラーは静かに待つ。穏やかな時間に、ほんの少しの緊張、その緊張は不快なものではない。それは彼にとっても、そしてミューラー自身にとっても大切な時間。そんなに長い時間黙っていたわけではないが、それでもなぜか長く感じるもので。
 ゆっくりとコーヒーを楽しんでいれば、ディアスが身をよじり、ミューラーの脇にくっついてくる。ん? と首を傾げていれば、ディアスは顔も上げずにボソボソと話し出す。くぐもった声にいつもの覇気は感じられなかった。
「オレは……パスカルもミューラーも好きだよ」
 ボソボソと話す彼にそうか…と返すミューラー。
「好きだから、決められない」
「それでいい。お前はそれでいいんだ」
「怒らないのか?」
 そろそろと顔を上げ、少しばかり怯えた声。なにをそんなに怯える必要があろうか、と苦笑する。誰も彼をとがめはしない。とがめることが出来る者などいやしない。自分が彼を想う気持ちも、パスカルが彼を想うのも、そしてディアスが二人を想うのも皆同じだろう。誰隔てなくディアスは想いそして、受け止める。それは彼の持つ性質だろう。自由気ままで、それでいて人を大切にする彼に惹かれぬ者はいまい。
「怒る必要がない。それが天才ファン・ディアスだろ?」
 おれも、きっとパスカルもお前が好きだよ。そう言って、ミューラーはディアスの前髪を軽く上げると、現れた額にそっと唇を当てた。そんな彼の行動にディアスは目を丸くし、状況が理解できると、丸まるとした頬を赤らめた。ディアスは何か言いたそうに口をモゴモゴ動かす藻、上手く言葉にならないようで、キスされた額に手を当てている。
 いとおしそうに目を細めるミューラーに対し、ディアスがひねり出した言葉は……。
「……やさい……」
「ん?」
「やさい…食べるよ。好きな人のために……頑張る……よ」
 しどろもどろになりながらも彼はそう告げる。それが彼の出した答えであり、愛情表現の一つであるならば、それを受け入れることは簡単なことだ。好きな者のために苦手を克服すると宣言する彼は、なんと可愛らしいことか。はたしてこの感情が愛情であるか、それとも庇護欲と呼ばれるものなのか、ミューラーには判断が付かない。ただ、ただ、可愛らしいと思うだけ。
「ああ、それがいい。パスカルにもそう言ってやれ。喜ぶぞ」
「ミューラーも嬉しいか?」
 大きな眼が不安に揺れて見上げてくる。何かを失うのではないか……幼子が母を見失ったときのような眼。そんな眼をせずとも、どこにも行きはしないのに。
 ミューラーはディアスの小さく丸まった身体を軽々と持ち上げ、自分の膝の上に乗せた。
「ああ、ディアスが元気でいてくれるなら、嬉しい」
 彼の頬に自分の頬をすり付けながらそう言った。ディアスはくすぐったい、やめろよー、と言いながらも笑い、じゃれついてくる。
「じゃあオレ! 二人のために頑張るからな!」
「そうだな、天才なら大丈夫だろ」
 もちろん、天才だからな! とディアスはいつもの元気を取り戻したようで、大きい声で宣言すると、二人は顔を見合わせ、声を出して笑いあった。
 ひとしきり笑うと、ディアスはテーブルに置いてあったマテ茶に手を伸ばし、ミューラーに差し出す。首を傾げている彼にディアスはマテ茶の飲み肩を説明。回し飲むものだと聞かされた彼は大人しくグァンボを受け取った。
「マテ茶ってさ、そのまま飲むのもありなんだけど、隠し味にいろんなもん入れたりするんだ」
 へーっと興味津々に聞いていたミューラー。グァンボからはマテ茶の香ばしい香りに加えて、少々スパイスの香りが混じる。明らかにそれは茶の香りではなく別のもの。それも、ごく一般的に使われている香り……。
「……シナモン?」
 ミューラーの問いかけにディアスは答えず、眼を細めるだけ。
「今使った隠し味、オレ、パスカルとミューラーにしか、飲ませてないから」
 彼はその意味を決して教えてはくれない。意味ありげな笑みを浮かべているディアスを気にしつつ、ミューラーはマテ茶を口に含んだ。飲み慣れないせいか、口に広がる苦みと独特な風味に一瞬顔をしかめるも、飲んでいれば、それもまた美味しく感じてくるものである。  
 そして、香るシナモン。いつかこの隠し味の意味を教えてくれるだろうと思い、ミューラーはシナモン入りのマテ茶を飲み干した。



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ただただ、ぼんやりと息をする生き物。何かを考えているようで結局はなにも考えていない。そんな生き物です。

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