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「もし」で始まる話をしよう




 最近よく猫に噛まれたり踏まれたりしている塞です。みなさまいかがお過ごしでしょうか。
 部屋でゴロゴロしていると必ずと言っていいほど踏まれます。お前おったんかい、という具合に踏まれます。あいつらはかなり、自由です。。。。



 さて、本日は久々にお話を一つ上げさせていただきます。
 人生初のコジケンですね。
 (゚д゚)!? ってなる方も居られるかもしれませんし、いないかもしれませんが、コジケンです。たぶんコジケン書くのはこれが最初で最後になるかもしれませんが、楽しんでいただけたら幸いです。
 えー…それにともないまして、いろいろとねつ造、といいますかなんといいますか…そんなことをしております。ねつ造点としましては、『健ちゃんの右足に、交通事故で負った大きな傷がある』ってところが一番大きいんではないかと思います。それをご理解の上読んでいただけると助かります。日向さんも健ちゃんも初書きなので、どうなるか……。
 まぁグダグダ言ってないでさっさと本編に移りますね~

 それではみなさんまた次回!
 

 あらすじ↓
 暑い部屋で、日向は若島津の傷跡を見ながら昔を思い出します。そこから始まる「もし」のお話(たぶんこれでいい…はず。。。)

 




「もし」で始まる話をしよう

 毎年のことではあるが、寮の部屋は相変わらず気温と湿度が高い。要するに不快度指数が高いと言うことだ。全寮制であり、各部屋の設備はもちろん整っている。この暑さに耐えることができるものなどそう多くはないだろう。窓を閉め切りクーラーをつけ、灼熱の地獄に涼を求めることだろう。もちろん例外などなく、彼らの部屋にもクーラーは付いていた。しかし、それを起動させることなど多くはない。一夏に数回動かせば彼らにとって良く使った、と感じさせるだろう。使わない理由はいろいろあれど、その中で一番になっているものは、冷えすぎるのは身体に悪い、それだけのことである。暑さで体調崩すことの方が多いだろうが、なぜか彼らは暑さに強かった。幾度となくこの夏を越えてきたが、体調を崩すことなどない。むしろ、冷えた部屋で一日過ごしただけで喉が痛い、頭が痛いなどという不調に見舞われたほどである。そんな彼らであるが、さすがにこの日だけは暑さに参っていた。
 窓を開け、網戸を通り抜ける風だけが唯一、この暑さを和らげるものとなっている。しかし、その風もまた生暖かく、涼を取るに大した効果はなかった。
「なあ、若島津……暑くねぇか……」
 暑さにめっぽう強い日向でさえ、汗で張り付いたTシャツでパタパタとあおぎ、部屋の壁に掛けてある昔からの温度計に目を向ける。中に入っている赤い液体はもう35度の目盛りまで上昇していた。それを見るだけで、この茹だるような暑さを意識してしまう。
「俺はこれぐらいならまだ大丈夫ですけど……と言うより、日向さんに問題があるんじゃないですか?」
 たぶん、暑いですよ、これ。と、若島津は日向に向かって答える。
 寝ころんだ日向の眼前に広がるは天井と、邪魔にならないのかと思うほどに長い髪の毛。それを束ねることなくジッと古典の教科書に目を落としている若島津の顔。教科書と彼の身体の間から見えるその顔は、日向が思っていたより涼しげで、汗一つ見あたらない。長い髪はべたつくことなく、時折吹く風に揺れている。そして、日向の頭の下には、筋張った固い固い彼の大腿があたる。ハーフパンツ越しから伝わる体温は外気に比べるとひんやり冷たくそれはそれで心地が良い。
 日向は何気なく腕を伸ばし、彼の素肌に触れてみる。それは自分の掌が熱いと感じるほどに冷たくなっていた。それ故、彼に触れているから暑いというわけではない。いや、たとえそれが原因であっても、日向の中に彼から離れる、という選択肢はなかった。
 若島津のベッドで彼の大腿を枕に寝転がることなどそう多くはない。たまたま、成り行きでこうなったこと。申し合わせたつもりはない。そして日向は意外にもその感触と風景が気に入っていた。
「これが暑いわけじゃねぇ。ただ気温が…35度だぞ?」
 そう言えば、若島津は教科書を脇に置き、日向の顔をのぞき込む。
「……クーラー、つけますか?」
 いつもと変わらぬ声、抑揚ですら何ら変化を見せない。表情ですら涼しい顔をしている。だが、彼と深い仲でなければ決して気づかぬ変化が一つだけ。ポーカーフェイスの中、整った眉の些細な動きに日向は目を細めた。
「あー……いや、そこまでは、いいや」
 そう言えばそうだった。日向は頭を掻きながら若島津に背を向けるよう寝返りをうつ、背後からすいません、と彼の声が聞こえたが、日向は聞こえない振りをする。彼に謝らなければならないのは自分のほう。ただ、暑いけど、お前は暑くないか? そんなつもりで聞いただけだったのだ。いらん気を使わせたと顔をしかめる。
 若島津は脇に置いていた教科書で日向をそろそろと扇ぎ始める。やはりやってくる風は生温いものの、それを生み出すのが彼だろ思うと、それだけで心地の良いものに思えてくる。単純でわかりやすく、この暑さでさえどうでもよいと思えるほどに自分は若島津に惚れている。そんなことを考えていればどこか気恥ずかしくなり、日向はもう一度、乱暴に頭を掻いた。そんな彼を見てか、クスリと笑う若島津に、やはり恥ずかしさは拭えない。
 ガリガリと頭を掻いていた日向であったが、ふとした弾みで彼の足が目に入る。壁に背を預けてい座っている若島津の足先はベッドからはみ出て宙に浮く。その足先……と言うわけではなく、日向の目に入ってきたのは右足の脛を走る一本の傷痕。
 肌を露出している部分には意識して見ねばわからぬほどの小さな傷痕はもちろんいたる所にある。その中にある大きく目立つ傷痕。日向はなにを思うわけでもなく、ゆっくりと腕を伸ばすと、熱くなった手をその目立つ、彼の足には似つかわしくない傷痕に這わす。宙に浮いていた若島津の足先がその瞬間ピクリと跳ね上がるが、彼の反応はそれだけだった。
 脛の中心を縦に走る1本の手術痕。その長さは日向の薬指と親指を結んだものをほぼ同じ。古い傷で、白く浮き上がり、白い線の左右に点々と縫合の痕も見える。決して綺麗とはいえぬ痕を日向は黙って撫ぜる。
 彼が交通事故にあった、と聞いたとき、すべての熱を奪われたようなそんな感覚に陥ったことを今でも日向は覚えている。
 また、失うのか。
 同じ、理由で。
 どこまでもどこまでも自分の大切な者を奪っていく交通事故。そうまでして自分の中にある絶望を怒りへと変化させたいか! 存在などせぬと思っていた神を、日向はこのとき初めて呪ったであろう。
 父に次いで彼まで奪われてなるものか、と。
 幼い頃、父は死んだ。約束が守れなかったからだ、と自分を責め、悲しみも不安も絶望も、全てを責め立てる為の怒りへと変えていった。辛い、苦しいなど、そんな感情、そのときの自分に存在していなかった。
 父を看取ることなどできはしなかった一瞬の出来事。家に帰れば母が居て弟妹が遊び、そして父が帰ってくる……そんな日常は一瞬にして崩壊する。父に試合の結果を報告することなく、彼はもう、ここには居なかった。
 なぜ、なぜ、なぜ! 憎むべき場所は見あたらず、誰に当たればいいのかもわからない。そんななかで沸々とわき上がる悔しさと怒り。
 もう、どうしようも、なかったのだ。
 日常が音を立てて崩れていく。
 その音に耳を塞ぐも、逃げ切れぬ現実がおそってくる。まだ幼い子供から全てを奪い尽くすには十分だった。
 棺に横たわり静かに目を閉じている父の顔には傷ひとつなく、うっすらと化粧の香りがした。自分の父であるにも関わらず、どこか別の人物を見ているような錯覚を覚える。安らかを通り越し、その男は不気味で近寄りがたかったことを覚えている。
 涙を堪え、震える声で子供らを慰める母、ためらいもなく大泣きする弟妹。しかし、自分だけは泣くことはなかった。冷え切った父の抜け殻に触れ、もう二度と会えぬのだと思うと悲しみより悔しさの方が大きくなった。唇をかみしめ全てを呪わんとする言葉を心の中で吐き続ける。
 叱られたこと、褒められたこと、頭の中にそれらが一気に溢れ出す。そして最後に現れるのは、あの約束。今の自分を生み出すきっかけとなった、あの……。
 痛みも苦しみも通り越し、自分の中に残ったのは、紛れもない自分自身に向けた、純粋で強力な憎悪だけ。救いなど求めるつもりはない。このときから残った憎しみを武器に戦ってきたのだ。
 そんな彼も、抜け殻が灰へと変わる時間になると、姿をくらまし独り、誰にも気付かれぬよう声を押し殺し涙を流した。
 自分以外はみな敵。そう思いこんで生きてきた自分の、唯一背を任せられる男。若島津健に出会ったのはそれから数年後のこと。そして、その彼がこの大きな傷痕をつけることになったのもまた、出会ってまもなくのことであった。
 昔のことを思い出しながらぼんやりと若島津の傷を撫ぜ続ける。白く隆起した部分を手で、指で確かめるように時間をかけて触れ続ける。さすがの若島津も日向の様子がおかしいことに気付き、戸惑ったように彼の名を呼ぶ。日向はそれに返事をせず、彼らしくない落ち着いた声音でぽつりぽつりと話し始めた。
「お前も死んじまうんじゃねぇか、って思ったんだ……」
 滑らせていた手をとめ、傷痕を掌で覆う。冷たかった彼の肌が日向の熱を受け徐々に温かくなっていく。生きている人間の温かさが、そこにはあった。
「父ちゃんと同じように……お前も死んじまうんじゃないかって思ったんだ。そしたらたぶん、おれはまたおれを憎んでどうしようもねぇところまで落ちちまうんだろうってな。誰も信じられなくなって、敵に囲まれて、神経すり減らして……それでおれも死んでいくんだ……もし、あの時、お前が死んでたら、おれは、いま、どこにいるんだろうな」
 日向は決して若島津を見ない、彼に背を向けたまま、独り言のように呟く。
 今の自分を作り上げる原因となったもの。多くの分岐の中で選択し、生きてきた結果がここにある。この中の何か一つでも欠けていようものならば、きっと自分はここにいないだろう。たとえ彼と出会っていたとしても、深い仲……背を任せられるような仲にはなれなかっただろう。いや、
出会っていても彼があの時死んでいれば、彼はもう……思い出の人なのだ。
 別の時間を生きる自分が居るのであれば、果たしてそいつはこの時間を生きる自分より幸せになれるのであろうか。つまらない想像に日向の意識は向けられる。彼のいない時間など、人生など、実につまらぬものであろうに。
 微動だにしない日向。そんな彼の耳に入ってきたのは、変わりませんよ、という若島津の言葉だった。
「あ?」
「ですから、日向さんはなにも変わりませんよ。サッカーやって、きっとこんな風にベッドに寝そべって暑い暑いって言ってると思いますよ。そう、なにも変わりませんって」
 そう言いきると若島津は穏やかに笑う。
 なにも変わらない? 彼がいなくなっていたとしても、自分はなにも変わらないだろ? そんなことあるものか! 若島津の言葉に反論しようと日向は勢いよく上に向き直り、身体を起こそうと腹筋に力を入れる。しかし、それは若島津の手によって阻止された。上を向いたままの日向の額に手を添える。たったそれだけのこと。それでも日向は上体を起こすことなく、若島津の大腿に頭を納めたままである。若島津少し困った表情を見てしまえば、その手を払いのけてまで起きあがる必要はない。
「変わらねぇって、どういうことだよ」
 額に添えられた手に自分の手を重ねる。触れた手はやはり冷たい。
「そのままの意味です。日向さんは変わりません。俺にはわかるんですよ」
 なんの確信もないくせに、日向は心の内でそうボヤくも、どこか自信に満ちた彼の物言いに、無条件に信じてしまいそうになる。だが待て、と日向は思いとどまった。変わらぬはずがない。好いている者がいない世界だぞ、この感情ですら無い世界で……この幸福に浸れるはずがない。
「わかるって、お前な」
「だから日向さんは、ですよ」
 やけに強調された言葉、それが意味するものにに気付くに少々時間がかかった。日向の頭の中が急速に回転している頃、若島津は落ち着いて話し始める。決して茶化しているような様子はなく、いたってまじめに。
「日向さんは変わらない。変わるのは俺だけですよ」
「…………」
「だってそうでしょ? あの時の事故でたまたま生きただけ。それでゴールキーパーになって、こうやってずっと日向さんの側にいることができる。でもそれはあくまでも俺の目から見て、なんですよ。もし事故で死んでしまえば俺はそこで終わりだったんです。そしたらここにいないどころか、日向さんとの関係だってそもそも存在しなかったことになるんです。だから俺がいなくても日向さんは、日向さんとして、きっとここにいるんですよ」
 だから変わりません。彼はそう言うと、日向の手を退けゆっくりと彼の髪を梳き始める。冷たい掌が髪を梳くたびに、日向は強い強い欲情にかられる。
 こんな話を始めたのは紛れもなく自分である。そして彼のいわんとすることも、ぼんやりとわかる。いなければいないで、きっと自分はなにも変わらずに生きていくと彼は言う。そうだとするならば時々、若島津が生きていたら……と思い出しているかもしれない。いや、もしかしたら、若島津のことすら、覚えていないのかもしれない。
 日向の背筋に冷汗が走る。死に別れるだけでなく、その存在すら忘れてしまうなど……。
 髪を梳く彼の手を力強く掴むとそれを乱暴にひっぱる。すると、彼の顔が自然と近づいた。昔はこうして顔を付き合わせるだけで、照れくさいというか、恥じらいに似た感情が支配していたが、今はもう無い。いま、ここにあるものは彼を求めるだけの、欲。もし……など考える必要はなかった。ここに彼がいて、自分がいる。それは紛れもない真実であり、現実だ。そして、それを幸せに思う自分がいる。それで、いい。
 唇が触れそうな彼らの距離。若島津は突然のことに目を見開き、日向にぶつからぬように、と軽く顔を逸らす。だが、日向は気にもとめなかった。素早く彼の唇を奪う。彼のそれはほかの場所とは違い、熱く熱を持っている。彼は死にはしない。熱く熱く、肌の下を駆けめぐる血潮の熱をこうして感じることができるのだ。つまらないことを考えるのはもうやめよう。
 触れるだけの口付けに、日向の欲はさらに刺激される。名残惜しそうに唇を離すと、若島津は、何ですか急に、と眉をひそめた。しかし、彼の白い頬は、顔は薄らと赤くなっていた。
「……やっぱりおれが一番幸せだ」
「え?」
「もし、お前があの時死んでて、それでもおれは変わらなくて……そんなおれが幸せだと思っていても、今のおれの方が、数十倍、数百倍も幸せだ。こうやってお前が生きていることが実感できるんだぞ?」
 おれが一番に決まってる。相変わらずの自信に満ちた笑みを浮かべる日向に、若島津の赤みが強くなる。
「あ、あんたらしくないこと言うのやめてください」
 消え入りそうな彼の声が耳を擽る。それは快感を生むには十分。
「なぁ……」
 色と熱を含んだ声が吐息に混じって紡がれる。それを発したのはほかでもない日向自身。こんな声も出るもんだ、と苦笑する。
 若島津はそんな日向の声を聞き、照れ隠しなのか、フッと彼から目をそらす。
「……クーラー、つけましょうか」
 先ほどと同じ小さく震えた声。若島津の視線の先には、まだ、真新しいクーラー。
「いいのかよ。痛むんじゃ」
 若島津がクーラーを嫌う理由、身体の調子を崩す原因の一つは、この脛を走る一本の傷痕だった。冷えすぎると痛み出す。日向はそれを知っていたのであえて強くは言わなかった。
「今日は、いいです」
 あんたで暖をとりますから。そう言うも、やはり彼は日向を見ない。
「そうだな、お前が痛くねぇように、介抱してやらねぇとな」
 ニヤリと口角を上げ、もう一度彼を引き寄せた。重なる唇はさらに熱を帯びている。
 もし、なんて考える必要はない。そんなものを考えるぐらいなら今の幸福を噛みしめたらいい。
 痛みも憎しみも越えた、今の幸せを。






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ただただ、ぼんやりと息をする生き物。何かを考えているようで結局はなにも考えていない。そんな生き物です。

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